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東京地方裁判所 平成7年(行ウ)194号 判決

原告

住建不動産株式会社

右代表者代表取締役

村上一雄

右訴訟代理人弁護士

牛嶋勉

被告

東京都台東都税事務所長 佐藤紀保

右指定代理人

友澤秀孝

宮本治樹

野口健

理由

二 ところで、法附則三一条の五第一項によれば、同項所定の区域内に所在する土地で、昭和五七年四月一日から昭和六三年三月三一日までの間に当該土地の所有者が取得したもののうち、同項各号に該当する土地に対しては、法五九五条の規定にかかわらず、その取得がされた日から起算して二年を経過した日の属する年の翌年の四月一日からその翌年の三月三一日までを初年度とする一〇年度分に限り、特別土地保有税を課するものとされている。このように、法附則三一条の五第一項所定の特別土地保有税は、法五九五条の基準面積に満たない比較的小規模の土地を課税対象とし、土地の取得から二年を経過した日の属する年の翌年から課税されるものであるから、それまでの間に当該土地が法五八六条二項所定の非課税土地又は免除土地としての使用に供されることになれば課税されないこととなる(法附則三一条の五第二項、法五八六条二項、六〇三条の二第一項)。そして、右特別土地保有税が課されることとなる年度において、当該土地が非課税土地として使用されていない場合でも、使用できなかったことが「災害その他やむを得ない理由」によるものであるときは、法六〇一条一項を適用するものとされ(法附則三一条の五第二項)、また、「災害その他やむを得ない理由」により当該土地について法六〇三条の二第一項の免除土地の認定を受けることができないときは、市長が定める相当の期間、特別土地保有税に係る徴収金の徴収が猶予されるものとされている(法附則三一条の五第五項、法六〇三条の二第一項、六〇一条三項)。

右各規定によれば、法附則三一条の五第一項による特別土地保有税は、土地取得の日から二年を経過した日以後の保有について課することとされ、取得から二年間は、課税ないし徴収が猶予されたのと実質的に同じ結果となっているのであって、課税されることとなる年度において当該土地を非課税土地又は免除土地として使用していない場合に、使用することができなかったことが「災害その他やむを得ない理由」によるものであるときに限って、徴収猶予等の措置を講じることとしているのも、既に二年間実質的な猶予があったことを考慮したことによるものということができる。

右の点に加え、法附則三一条の五第五項が「やむを得ない理由」と並べて「災害」を挙げていることを考慮すれば、同項にいう「やむを得ない理由」により免除土地の認定を受けることができないときとは、その土地を免除土地として使用することが土地の所有者の責に帰することのできない客観的な事情によって不可能である場合をいうものであり、単に土地の所有者の主観的、個別的な事情による場合は含まれないと解するのが相当である。

そして、免除土地の認定は、申告納付すべき日の属する年の一月一日の現況によるものとされているから(法附則三一条の五第二項、六〇三条の二第七項、五八六条四項)、平成三年度において免除土地の認定を受けることができないことについて「やむを得ない理由」があったかどうかを判断する基準日は、平成三年一月一日となる。

三 そこで、原告が、平成三年度において、本件土地につき免除土地の認定を受けることができなかったことが法附則三一条の五第五項にいう「やむを得ない理由」によるものかどうかについて検討する。

1  原告は、本件店舗の設置認可の内示がされた平成三年五月三一日までは、原告としては、本件建物の建築工事に着手することができなかったとして、本件土地につき免除土地の認定を受けることができなかったことには「やむを得ない理由」がある旨主張する。

しかし、証券取引法三三条四号に基づく設置認可は、証券会社が支店その他の営業所を設置するについて要求されているものにすぎないから、本件店舗について設置認可あるいはその内示がないことは、原告が本件土地上に本件建物を建築すること自体について何ら客観的な障害となるものでないことはいうまでもなく、また、本件土地につき免除土地の認定を受けるについて、本件建物を証券会社の店舗として利用することが右認定の要件となるものでもないのであるから、野村証券において設置認可又はその内示が得られないことは、原告が本件土地を免除土地として使用することを不可能にする客観的な理由となるものではないというべきである。原告が本件建物の建築に着手することができなかった理由として主張するのは、本件建物が証券店舗用に設計されたもので、野村証券が設置認可を得られない場合には、これを野村土地建物に売却することができず、他に売却することも著しく困難であるというものであるが、それは要するに、本件建物を建築するかどうかという原告の経営判断の問題であり、予定した取引先が未だ本件建物の購入を決定していない事情の下で、建築後にこれを売却できないことによる損失の負担を回避したいという損益計算に関する事情にすぎないものであって、このような事情は、土地の所有者側に存する主観的、個別的な事情にほかならず、その土地を免除土地として使用することができない客観的な事情ということはできず、法附則三一条の五第五項にいう「やむを得ない理由」には当たらないというべきである。

2  これに対し、原告は、法附則三一条の五第五項にいう「やむを得ない理由」には、行政庁の認可手続等による制約によって建物建築に着手することができない場合が含まれるから、本件店舗の設置認可の内示がなかったという事情は、「やむを得ない理由」に当たる旨主張する。

しかし、行政庁の認可手続等によって建物の建築自体が制約を受けるような場合であればともかく、本件においては、前示のとおり、本件店舗の設置認可あるいはその内示がないことは、原告が本件土地上において本件建物の建築に着手し、本件土地につき免除土地の認定を受けることについての客観的な障害となるものではないのであるから、原告の右主張は失当というほかない。

3  したがって、平成三年度において本件土地につき免除土地の認定を受けることができなかったことが法附則三一条の五第五項所定の「やむを得ない理由」によるものであるとする原告の主張は、理由がないといわざるを得ない。

四 以上のとおり、原告の本件土地に係る特別土地保有税の徴収猶予の申請は、「やむを得ない理由」により免除土地の認定を受けることができない場合に当たるとは認められないから、本件各処分は適法である。

五 よって、本件請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 岸日出夫 徳岡治)

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